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2025.04.16
【イベントレポート】「Matching Newtype!」Vol.1 渡辺信一郎(監督)×川本耕史(ファイトコレオグラファー)イベントレポート
【出演】
渡辺信一郎(監督)×川本耕史(ファイトコレオグラファー)
【司会】
傭兵ペンギン
■実写とアニメ、そのボーダーを超える“アクション”という共通言語
2025年4月6日、新宿・歌舞伎町にある新宿ロフトプラスワンにて、月刊ニュータイプが主催するイベントシリーズ「Matching Newtype!」が開催された。このイベントは、クリエイターたちが「ニュータイプ」を出会いの場として活用し、それぞれの仕事を紹介すると共に、テーマに沿った形で対談をするイベント企画。
初回となった本イベントのテーマは「アクションを作る、アクションを描く、アクションを演じる」。
トークゲストとして登壇したのは、『LAZARUS ラザロ』より監督である渡辺信一郎氏と、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の撮影に参加したファイトコレオグラファー、川本耕史氏のふたり。「アクションを映像作品として表現すること」について、両者の立場や視点からそのこだわりを語られただけでなく、チャド・スタエルスキ氏(『ジョン・ウィック』シリーズ監督、『LAZARUS ラザロ』アクション監修)との仕事についても紹介された。
■バトルアクション全般を担う? ファイトコレオグラファーの役割とは

最初のパートでは、渡辺監督の代表作が公開順にエディット・ミックスされたフィルモグラフィー・ムービーを上映。渡辺監督は『LAZARUS ラザロ』について、「久々のSFアクションものなので、最新の、アップデートしたアクションをやりたい」と、『ジョン・ウィック』シリーズで知られるチャド氏にオファーを行ったとのこと。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に参加していた川本氏とも話がしたかったと、今回の対談相手に指名した理由についても語られた。
渡辺監督から挨拶代わりに、「好きだったアニメは?」と問われた川本氏は、「子どもの頃には『るろうに剣心』、『幽☆遊☆白書』、『北斗の拳』、『DRAGON BALL』は見ていた」と、そのアニメ遍歴を答えていた。
MCを務める傭兵ペンギン氏からの最初の質問は、「ファイトコレオグラファーの役割」について。川本氏は、「実写映画やドラマなどの戦闘シーン、例えばワイヤーアクションなどをコーディネイトする役割です。日本でいう殺陣師のようなもの。カメラのアングルも決めるし、『ジョン・ウィック』シリーズではスタント・コーディネイターが別で立っています」と、その役割を具体的に説明。また、ファイトコレオグラファーの仕事は戦闘シーンだけに留まらず、「恋に落ちた女の子がその場に倒れる演技のとき、マットを地面に差し出す役割もある」と話すと、その幅の広さに観客も驚いていた。
渡辺監督はそうした作業の流れを聞くと、「(アクションの)細かい部分はアニメーターが作る。すべてを厳密にこちらから指示して、見ているわけではない」と、自身のアニメにおけるアクションシーンの作り方を解説していた。
ここで、川本氏の仕事をまとめた映像を上映。川本氏がアクションやカメラワーク、どこでワイヤーアクションを使うかまで選定。主人公役は川本氏の実兄が、また、スタント・パーソンの中には、『ベイビーわるきゅーれ』で知られる伊澤彩織さんの姿も見られた。こうしたテスト映像で構築したアクションを尺に合わせて削り、撮影現場に持っていくことが主な流れだというが、作品によっては、実際にロケーションを見てからアクションをその場で作ることも。香港で撮影した『スーパーティーチャー 熱血格闘』では、営業中のジムの一角を借り、即席でアクション作りをすることもあったそうだ。
■チャド・スタエルスキが進化させたアクション
『LAZARUS ラザロ』でアクション監修に参加し、『ジョン・ウィック』シリーズの監督を務めるチャド・スタエルスキ氏の魅力についてトーク。

渡辺監督は、「僕らが見てもすごいと思う」と率直な感想を述べると、川本氏は、「チャドさんはアクションの歴史を変えました。特に、格闘と銃撃戦を混ぜた近距離でのガンアクション」と、具体的にその凄さを解説。続けて、「この銃には何発、弾が入るのか。拡張マガジンが付いているのかどうか。弾切れしたらどのようにマガジンチェンジをするのか」といった、ガンアクションにおける高いリアリティも魅力と話す。
実際に『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でチャド氏と仕事をした川本氏は、撮影前に「3ヶ月半くらい、役者さんと一緒にトレーニングしました。キアヌ・リーブスも週5で練習に来ていました」と、みっちり練習期間があったことを説明。それを受けて渡辺監督は、「そういう期間が取れるのがすごい。日本(の実写映画)だったら撮影が終わっている」と、リアリティを生むためにしっかりと準備期間を設けるハリウッドの体制に驚いていた。
続いて、『LAZARUS ラザロ』にチャド氏が参加した経緯について、改めて渡辺氏から説明がなされた。当初は「アクションを作るにあたっての心構え」をヒアリングするだけの予定が、「あと何をやれば良いんだ?」と前向きに考えてくれていたとのこと。「『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』が大好きで、インスピレーションをもらったから(その恩を)返すよ」と、これまでの渡辺監督作品へのリスペクトもあり、アクション監修についても快諾してくれたそうだ。
■アクションシーンを作る上で何よりも大切なこと
以降のやり取りでは、チャド氏の右腕であるジェレミー・マリナス氏が中心となって行われたアクションシーンをチャド氏が監修。OKになったVコンテ(シーンのベースとなる映像)が渡辺監督側へと送られてくる流れだったそうだ。ここで、チャド氏から送られてきたVコンテを特別に上映。ガンアクションと格闘技を交えたアクロバティックなアクションシーンが一連のシーンとして収録されており、渡辺氏も「すごく細かなところまで作り込まれている」、「ゆっくりアクションを解説してくれるパートもあり、それが作画する上で非常に役立った」と感謝を述べていた。川本氏は、「チャドさんのアクションチームの特徴として、一連の流れを実際のスピードでやります。カットを割ったり、カメラアングルを変えたりせずに一連でできるまでやるスタイル」と、その難易度の高いシーン作りを解説してくれた。
一方で、渡辺氏は『LAZARUS ラザロ』におけるアクションシーンの作り方について「細かく説明する前にチャドさんが自主的に送ってきたVコンテと、個々のシーンを説明したあとで送られてきたVコンテ」の2パターンあり、実際に作画に入る際には、その一部を取り上げて制作していると解説。また、本作では敢えて作画にモーションキャプチャーもロトスコープも一切使っていないそうだ。
川本氏は、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でのチャド氏とのやり取りを振り返り、あるテーマに沿ったイメージを伝えられるところから、だんだんとアクションを具体化させていく流れがあったという。だが、キアヌと共に作品には欠かせないドニー・イェン(ケイン役)の、枠に囚われない“香港スタイル”に翻弄されたエピソードなども飛び出し、会場は大いに盛り上がった。

イベントも終盤。ふたりには、ここまでの流れをまとめるために「アクションで大事にしていること」との質問が投げかけられた。川本氏は「映像を見終えたあとに、人が真似したくなるようなアクションですね。小学校でも流行るような」と、そのインパクトやリアリティを大事にしていることを明かす。対して渡辺監督は、「アニメだと、逆に(実際には)できないことをやっちゃう。メディアの特性上、ずっと絵を動かすことができない代わりに、停滞したものが動き出す瞬間が好き。そういう静から動への切り替えの瞬間になにかが生まれる。つまり、アクションが生まれる瞬間が大事」と回答した。
川本氏も、「確かに、戦い出すっていうのはよっぽどのことなので。そういうシーンに至るまでの流れは監督とも話し合います」と、実写でも同じような考えが重要だと頷いていた。
■どうしたらアクションにテンポの良さが生まれるのか
『LAZARUS ラザロ』を先立って第4話まで鑑賞した川本氏は、オススメのアクションシーンとして、「第1話冒頭の、主人公アクセルの脱獄シーン」を挙げた。さらに「続きが早くみたいですね。アクションはどのシーンも素敵で真似したくなるし、インスパイアを受けました。これから“『ラザロ』、パクりました”というアクションが実写の世界でも出てくるかもしれません(笑)」とその興奮を直接渡辺監督に伝えていた。

観客からの質問コーナーでは、「おふたりが作るアクションのテンポの良さについて教えてください」との質問も。川本さんは、「Vコンテを作るときに音を考えます。流行っているサウンドを当てることもありますし、『アンパンマンのマーチ』を当てると意外と良いんです(笑)。そこでリズムの良い・悪いがわかることもある。あと、完全に無音にすることで逆にリズムが見えることもありますね」と、アクションシーンとそのテンポにおける音楽の重要性を解説。渡辺監督も、「『サムライチャンプルー』はヒップホップを使っていたので、先にシーンの曲を決めることもありました。あとはアクションのノリと緩急ですね。ビシ、ビシ、ビシと平坦なものではなくて溜めてからビシ!っと入れる」と、音楽の使い方に関する重要な言及もあった。
イベントは最後に、これからのふたりの予定などを紹介。アニメ監督とファイトコレオグラファーというそれぞれの視点から語られたアクション談義は、大盛況で終了となった。
渡辺信一郎(監督)×川本耕史(ファイトコレオグラファー)
【司会】
傭兵ペンギン
■実写とアニメ、そのボーダーを超える“アクション”という共通言語
2025年4月6日、新宿・歌舞伎町にある新宿ロフトプラスワンにて、月刊ニュータイプが主催するイベントシリーズ「Matching Newtype!」が開催された。このイベントは、クリエイターたちが「ニュータイプ」を出会いの場として活用し、それぞれの仕事を紹介すると共に、テーマに沿った形で対談をするイベント企画。
初回となった本イベントのテーマは「アクションを作る、アクションを描く、アクションを演じる」。
トークゲストとして登壇したのは、『LAZARUS ラザロ』より監督である渡辺信一郎氏と、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の撮影に参加したファイトコレオグラファー、川本耕史氏のふたり。「アクションを映像作品として表現すること」について、両者の立場や視点からそのこだわりを語られただけでなく、チャド・スタエルスキ氏(『ジョン・ウィック』シリーズ監督、『LAZARUS ラザロ』アクション監修)との仕事についても紹介された。
■バトルアクション全般を担う? ファイトコレオグラファーの役割とは
最初のパートでは、渡辺監督の代表作が公開順にエディット・ミックスされたフィルモグラフィー・ムービーを上映。渡辺監督は『LAZARUS ラザロ』について、「久々のSFアクションものなので、最新の、アップデートしたアクションをやりたい」と、『ジョン・ウィック』シリーズで知られるチャド氏にオファーを行ったとのこと。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に参加していた川本氏とも話がしたかったと、今回の対談相手に指名した理由についても語られた。
渡辺監督から挨拶代わりに、「好きだったアニメは?」と問われた川本氏は、「子どもの頃には『るろうに剣心』、『幽☆遊☆白書』、『北斗の拳』、『DRAGON BALL』は見ていた」と、そのアニメ遍歴を答えていた。
MCを務める傭兵ペンギン氏からの最初の質問は、「ファイトコレオグラファーの役割」について。川本氏は、「実写映画やドラマなどの戦闘シーン、例えばワイヤーアクションなどをコーディネイトする役割です。日本でいう殺陣師のようなもの。カメラのアングルも決めるし、『ジョン・ウィック』シリーズではスタント・コーディネイターが別で立っています」と、その役割を具体的に説明。また、ファイトコレオグラファーの仕事は戦闘シーンだけに留まらず、「恋に落ちた女の子がその場に倒れる演技のとき、マットを地面に差し出す役割もある」と話すと、その幅の広さに観客も驚いていた。
渡辺監督はそうした作業の流れを聞くと、「(アクションの)細かい部分はアニメーターが作る。すべてを厳密にこちらから指示して、見ているわけではない」と、自身のアニメにおけるアクションシーンの作り方を解説していた。
ここで、川本氏の仕事をまとめた映像を上映。川本氏がアクションやカメラワーク、どこでワイヤーアクションを使うかまで選定。主人公役は川本氏の実兄が、また、スタント・パーソンの中には、『ベイビーわるきゅーれ』で知られる伊澤彩織さんの姿も見られた。こうしたテスト映像で構築したアクションを尺に合わせて削り、撮影現場に持っていくことが主な流れだというが、作品によっては、実際にロケーションを見てからアクションをその場で作ることも。香港で撮影した『スーパーティーチャー 熱血格闘』では、営業中のジムの一角を借り、即席でアクション作りをすることもあったそうだ。
■チャド・スタエルスキが進化させたアクション
『LAZARUS ラザロ』でアクション監修に参加し、『ジョン・ウィック』シリーズの監督を務めるチャド・スタエルスキ氏の魅力についてトーク。
渡辺監督は、「僕らが見てもすごいと思う」と率直な感想を述べると、川本氏は、「チャドさんはアクションの歴史を変えました。特に、格闘と銃撃戦を混ぜた近距離でのガンアクション」と、具体的にその凄さを解説。続けて、「この銃には何発、弾が入るのか。拡張マガジンが付いているのかどうか。弾切れしたらどのようにマガジンチェンジをするのか」といった、ガンアクションにおける高いリアリティも魅力と話す。
実際に『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でチャド氏と仕事をした川本氏は、撮影前に「3ヶ月半くらい、役者さんと一緒にトレーニングしました。キアヌ・リーブスも週5で練習に来ていました」と、みっちり練習期間があったことを説明。それを受けて渡辺監督は、「そういう期間が取れるのがすごい。日本(の実写映画)だったら撮影が終わっている」と、リアリティを生むためにしっかりと準備期間を設けるハリウッドの体制に驚いていた。
続いて、『LAZARUS ラザロ』にチャド氏が参加した経緯について、改めて渡辺氏から説明がなされた。当初は「アクションを作るにあたっての心構え」をヒアリングするだけの予定が、「あと何をやれば良いんだ?」と前向きに考えてくれていたとのこと。「『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』が大好きで、インスピレーションをもらったから(その恩を)返すよ」と、これまでの渡辺監督作品へのリスペクトもあり、アクション監修についても快諾してくれたそうだ。
■アクションシーンを作る上で何よりも大切なこと
以降のやり取りでは、チャド氏の右腕であるジェレミー・マリナス氏が中心となって行われたアクションシーンをチャド氏が監修。OKになったVコンテ(シーンのベースとなる映像)が渡辺監督側へと送られてくる流れだったそうだ。ここで、チャド氏から送られてきたVコンテを特別に上映。ガンアクションと格闘技を交えたアクロバティックなアクションシーンが一連のシーンとして収録されており、渡辺氏も「すごく細かなところまで作り込まれている」、「ゆっくりアクションを解説してくれるパートもあり、それが作画する上で非常に役立った」と感謝を述べていた。川本氏は、「チャドさんのアクションチームの特徴として、一連の流れを実際のスピードでやります。カットを割ったり、カメラアングルを変えたりせずに一連でできるまでやるスタイル」と、その難易度の高いシーン作りを解説してくれた。
一方で、渡辺氏は『LAZARUS ラザロ』におけるアクションシーンの作り方について「細かく説明する前にチャドさんが自主的に送ってきたVコンテと、個々のシーンを説明したあとで送られてきたVコンテ」の2パターンあり、実際に作画に入る際には、その一部を取り上げて制作していると解説。また、本作では敢えて作画にモーションキャプチャーもロトスコープも一切使っていないそうだ。
川本氏は、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でのチャド氏とのやり取りを振り返り、あるテーマに沿ったイメージを伝えられるところから、だんだんとアクションを具体化させていく流れがあったという。だが、キアヌと共に作品には欠かせないドニー・イェン(ケイン役)の、枠に囚われない“香港スタイル”に翻弄されたエピソードなども飛び出し、会場は大いに盛り上がった。
イベントも終盤。ふたりには、ここまでの流れをまとめるために「アクションで大事にしていること」との質問が投げかけられた。川本氏は「映像を見終えたあとに、人が真似したくなるようなアクションですね。小学校でも流行るような」と、そのインパクトやリアリティを大事にしていることを明かす。対して渡辺監督は、「アニメだと、逆に(実際には)できないことをやっちゃう。メディアの特性上、ずっと絵を動かすことができない代わりに、停滞したものが動き出す瞬間が好き。そういう静から動への切り替えの瞬間になにかが生まれる。つまり、アクションが生まれる瞬間が大事」と回答した。
川本氏も、「確かに、戦い出すっていうのはよっぽどのことなので。そういうシーンに至るまでの流れは監督とも話し合います」と、実写でも同じような考えが重要だと頷いていた。
■どうしたらアクションにテンポの良さが生まれるのか
『LAZARUS ラザロ』を先立って第4話まで鑑賞した川本氏は、オススメのアクションシーンとして、「第1話冒頭の、主人公アクセルの脱獄シーン」を挙げた。さらに「続きが早くみたいですね。アクションはどのシーンも素敵で真似したくなるし、インスパイアを受けました。これから“『ラザロ』、パクりました”というアクションが実写の世界でも出てくるかもしれません(笑)」とその興奮を直接渡辺監督に伝えていた。
観客からの質問コーナーでは、「おふたりが作るアクションのテンポの良さについて教えてください」との質問も。川本さんは、「Vコンテを作るときに音を考えます。流行っているサウンドを当てることもありますし、『アンパンマンのマーチ』を当てると意外と良いんです(笑)。そこでリズムの良い・悪いがわかることもある。あと、完全に無音にすることで逆にリズムが見えることもありますね」と、アクションシーンとそのテンポにおける音楽の重要性を解説。渡辺監督も、「『サムライチャンプルー』はヒップホップを使っていたので、先にシーンの曲を決めることもありました。あとはアクションのノリと緩急ですね。ビシ、ビシ、ビシと平坦なものではなくて溜めてからビシ!っと入れる」と、音楽の使い方に関する重要な言及もあった。
イベントは最後に、これからのふたりの予定などを紹介。アニメ監督とファイトコレオグラファーというそれぞれの視点から語られたアクション談義は、大盛況で終了となった。